歯周病Q&A
- 「歯がグラグラ」21歳でも歯周病(歯槽膿漏)?
今年21歳になる息子がいるのですが、「歯がぐらぐらする」「歯ぐきがはれる」といいます。歯磨きすると歯ぐきから血が出ることも時々あるようですが、これは歯周病でしょうか? 歯周病は40歳を過ぎてからの病気だと思っていたのですが…。(東京都・60歳・自営業)
- 増えている若年層の歯周炎・ キスでも感染する”伝染病”
おそらく早期発現型歯周炎でしょう。驚かれる方も多いかもしれませんが、最近では、10代~20代で歯周病になってしまう人も珍しくないのです。
歯周病とはいわゆる歯周病のことで、放っておくとあごの骨が溶けて歯が抜けてしまう病気です。通常の歯周病は、成人型歯周炎といって40代後半から50代を過ぎたあたりではっきりとした症状がでてきます。ところが、この早期発現型歯周炎は発症年齢が10代から30代と低く、発症した後は急速に進行して4-5年で約50%の歯周組織が破壊されるといわれています。そして、ここ数年の研究によって、早期発現型歯周炎の患者さんは大半が「A・a・菌やP・g・菌」という細菌に感染していることがわかったのです。
A・a・菌やP・g・菌は経口感染して、歯と歯ぐきの間の歯周ポケットに住み着きます。これらの細菌に感染すると、若くして歯周病が発症しやすくなります。通常の成人型歯周炎であれば、しっかりとブラッシングすれば、ある程度防ぐことができます。しかし、A・a・菌やP・g・菌に感染してしまうと、いくら丁寧に歯磨きしても発症を防ぐのは難しくなります。口のなかがきれいに見えても、レントゲン写真を撮ってみるとあごの骨がかなり溶けていることもあります。
恋人にうつす前に
A・a・菌やP・g・菌と歯周病の関係は、ヘリコバクター・ピロリ菌と胃かいよう、胃がんの関係に似ています。ピロリ菌に感染すると胃かいよう、胃炎、胃がんなどが発症する危険性が高くなるといわれていますが、同じように、A・a・菌やP・g・菌に感染してしまうと、早期発現型歯周炎になってしまうわけです。
そして、大げさないい方をすれば、早期発現型歯周炎も伝染病のひとつだといえるかもしれません。A・a・菌やP・g・菌は水平感染(兄弟、夫婦、恋人間の感染)や垂直感染(母子感染)により、周囲に感染するといわれています。つまり、恋人や夫婦間のキスなどでも簡単に感染してしまうわけです。
「歯周ポケット検査」1週間で判明・ 早めに発見、抗菌治療で撃退を
当院では、A・a・菌とP・g・菌の検査を行なっています。A・a・菌とP・g・菌に感染しているかどうかは「歯周ポケット内細菌検査」を受ければ、1週間程度で判明します。これは歯周ポケット内にペーパーポイント(こよりのようなもの)を挿入するだけの簡単な検査で、この検査の結果によって、歯周病発生のリスクを予測することができます。A・a・菌とP・g・菌が検出された場合は、できるだけ早く抗菌治療と一連の歯周病治療を受けることをおすすめします。
10代-20代で「歯がグラグラする」「歯磨きすると血が出る」という方は、早期発現型歯周炎に感染している可能性が高いと思われます。家族や恋人などに歯周病をうつしてしまう前に早めに検査・抗菌治療を受けましょう。
- 虫歯や歯周病の菌を調べたいのですが
周囲に虫歯や歯周病で悩んでいる人たちが多いので、自分も心配になってきました。虫歯や歯周病は口の中の細菌が原因だと聞きましたが、その細菌の数や濃度を調べることはできるのでしょうか?(東京都・43歳・会社員)
- 虫歯菌、歯周病菌、唾液を検査
驚かれる方も多いと思いますが、実は、口の中は肛門よりも細菌が多く、それらがバランスをとって生息しています。その中には虫歯をつくる細菌もあれば、歯周病(歯周病)の元になる最近もあり、それらのバランスが崩れたときに虫歯や歯周病が発生しやすくなるのです。
当院では「歯科人間ドック」を開設していますが、そのオプション検査の虫歯菌検査、歯周病菌検査、唾液検査によって、虫歯・歯周病が発生しやすい状態かどうかわかります。
口の中の状態は虫歯が発生しやすい状態、歯周病が発生しやすい状態、虫歯と歯周病の両方が発生しやすい状態、の3タイプに分類されます。
患者さんの中には「歯磨きをしていないのに、虫歯がほとんどできない」という人がいますが虫歯に対する抵抗力が強くても歯周病に対する抵抗力は弱いことがありますので、こういう人は歯周病に気をつけましょう。
虫歯菌検査では、唾液を採取して、ミュータンス菌とラクトバチラス菌の数を調べます。このミュータンス菌とラクトバチラス菌が虫歯を発生させる大きな要因なのです。
歯周病菌検査では歯周ポケットの中の細菌の量を測定しますが、希望する患者さんには「ペリオチェック」という特殊な薬をつかってその濃度を自分の目で確かめてもらいます。
唾液検査では、1分間に分泌される唾液の量、唾液の質感、唾液の緩衝能(虫歯菌の働きをおさえる機能)を調べます。
唾液の分泌量が少なくなるにつれ細菌が発生
唾液の量は多ければ多いほどいいし、質感はネバネバした状態よりもサラサラした状態の方が虫歯になりにくい。また、唾液の中に酸を中和する物質(炭化水素イオン)を多く含んでいると強い緩衝能を発揮し再石灰化を促進させます。
唾液の量、量感、緩衝能は、年齢、食生活、体質などさまざまな要因によって異なります。特に唾液の分泌量は年をとるにつれて少なくなりますが、分泌量が少なくなるにつれて、いろんな細菌が発生しやすくなり、同時に虫歯や歯周病も発生しやすくなります。
その他、歯科人間ドックでは食生活や家族の歯の状態などさまざまな要因を総合的に判断し、どうやったら虫歯と歯周病を防ぐことができるか、細かく指導していきます。虫歯と歯周病は、その原因も予防法もわかっている病気です。
しかし、この2つの病気ができてしまう条件は個人によって違いがあります。そのため、個々にあわせたきめ細かい予防プログラムで対応していく必要があります。
歯科人間ドックではきめ細かな口内検診や相談に加え、オプションとして審美相談、色彩検査、ホワイトクリーニング、金属アレルギーテスト、口臭チェックなども行なっています。虫歯・歯周病に不安がある人にも、ない人にも、より高いレベルの健康を手に入れるために、歯科人間ドックの受診をおすすめいたします。
- 口臭の解決策教えて
先日、ようやく胃かいようの治療が済んだのですが、それでも口臭が消えません。接客の仕事をしているため、非常に気になります。解決策を教えてください。(東京都・37歳・会社員)
- 虫歯と歯周病の完全治療が第一
口臭は自分ではなかなか気づかないものですが、知らず知らずのうちに他人に不快感を与えていることも少なくありません。
当院では今年3月から「歯科人間ドック」を開設していますが、そのオプション検査で口臭チェックを行っています。細菌は口臭を気にする人が増えており、ほとんどの患者さんが測定器による口臭検査を希望されます。また、実際にはほとんど口臭がないのに、「自分には口臭がある」と思い悩む自臭症の人もいますが、そういった不安もこの検査で数値をみれば、解消できます。
口臭は、胃かいよう、胃炎、気管支炎、へんとう腺炎、糖尿病など内臓疾患が原因になっていることもありますが、内臓疾患以外なら歯科治療でほぼ完全に治すことができます。口臭の90%以上は口の中の病気や細菌が原因だからです。
口臭の原因となるのは、「メチルメルカプタン」「硫化水素」「ジメチルスルファイド」などの揮発性硫黄化合物で、虫歯や歯周病ができると、これらの揮発性硫黄化合物が大量に発生します。マウスリンスやガムなどは一時的ににおいを消すことはできても、根本的な解決にはなりません。完全に口臭を断つには虫歯と歯周病を完全に治療することが必要です。
初期の歯周病は自覚症状がないため、気づいていない人がほとんどですが、30歳以上の人の80%は治療の必要な歯周病を患っています。特に歯磨きや固い物をかんだりしたときに、歯ぐきから出血がある人はかなり歯周病の症状が進行しているといえます。歯ぐきからの出血はうみをともなうことが多く、口臭の原因になります。
やっかいな点は、ほとんど初期症状がないので、知らない間に虫歯や歯周病が進行してしまい、口臭が放置されていることがよくあります。
いったん虫歯や歯周病になってしまったら、放っておいて治ることはありませんので、歯科人間ドックでの早期発見・早期治療が有効です。また、歯科人間ドックでは予防方法の指導などの、きめ細かな検査・診断や相談に加え、オプションとして虫歯検査、歯周病菌検査、審美相談、色彩検査、ホワイトクリーニング、金属アレルギーテストなども行います。
あまり知られていませんが、舌苔(ぜったい)も口臭の原因になります。舌苔とは舌の上に白くなってつもった食べカスのことで、舌の表面はでこぼこしていて、くぼみのなかに汚れがたまりやすいのです。舌苔を除去するためには、ヘラ状の専用ブラシをつかって「舌磨き」を行うとよいでしょう。
- 歯周病の治療法は?
奥歯がぐらぐらしてきたので歯科医の診察を受けたところ、「歯周病が原因で歯の周りの骨が溶けている」といわれ、ショックを受けました。やはり自分の歯は失いたくありません。溶けた骨を元通りにして歯を守る治療法はないものでしょうか?(東京都・35歳・会社員)
- 「エムドゲイン」を塗布し歯周組織を再生
歯周病(歯周病)は読んで字のごとくはを支える周りの組織に起こる病気で、進行すると歯肉(歯ぐき)だけでなく歯根膜(歯と歯の骨をつないでいる膜)や歯槽骨(歯の周囲の骨)まで溶けてしまいます。歯の周囲の骨が溶けて少なくなると歯は自然に抜け落ちてしまうので、歯周病は歯を失う最大の原因です。
画期的な薬が日本でも認可
これまでは、いったん悪くなってしまった歯周組織は元に戻らないと考えられており、歯周病治療はこの悪くなった部分を取り除く切除療法がメーンでした。ところが、今年の夏に「エムドゲイン」という歯周組織を再生する薬品(スウェーデン製)が日本で認可され、歯周病治療に革命をもたらそうとしています。
エムドゲインの主成分は、歯が生えてくるときに重要な働きをしている、エナメルマトリックスデリバティブというたんぱく質ですが、エムドゲインを悪くなった歯槽骨に塗ると、歯の発生過程に似た環境が再現され、歯根膜の再生、セメント質の再生、歯槽骨の再生が見られます。つまり、悪くなった歯周組織が元通りになっていく。完全に再生するまでには時間がかかりますが、これは自然の歯が生えはじめてから完全に生え終わるまで時間がかかるのと同じ。余談ですが、このエムドゲインは赤ちゃんの歯の発生過程の研究から発明されたそうです。
手術数時間で食事も可能に
エムドゲインの塗布は外科手術で行います。麻酔をかけた後、歯肉を切開し患部の歯根表面を清掃します。患部がきれいになったらエムドゲインを塗布して縫合するというシンプルな手術です。手術にかかる時間は約1時間程度で、悪くなっている歯が同じところに集まっていれば、まとめて手術もできます。抜歯は、通常、術後2-6週間後に行います。
歯と歯ぐきのすき間も改善
手術といっても終わってから数時間後には食事も可能なので、普通の歯科治療と同じような感覚で手術を受けられます。エムドゲインによる再生療法では、初めて歯が生えたときと同じような強固な付着機能を持つ歯周組織が再生でき、歯周病特有の歯周ポケット(歯と歯ぐきのすき間)も改善されていきます。
従来の切除療法では、術後に歯が長くなる、歯のすき間があく、発音がしにくくなる、などの審美的な問題もありましたが、再生療法はそういった面でも心配がありません。
しかし、歯周病対策で大切なのは毎日のブラッシングによる予防、そして早期発見早期治療です。本人が気づいていない軽度のものも含めると、40歳以上の80%が歯周病にかかっているといわれます。「歯がぐらぐらしたから歯医者に行く」「歯ぐきから出血したから歯医者に行く」のではなく、自覚症状がなくても歯の定期検診を受けて早期発見に努めてください。