歯周病の基本治療

ブラッシング ~歯周病の治療は歯磨きに始まり歯磨きで終わる~

発見さえ早ければ、完全に治るのが歯周病です。歯を削ることも、ましてや1本も抜かずに、歯ブラシ1本で治せることもあります。人によっては、病状がかなり進んでいても、歯磨きを励行することで治る場合さえあります。

歯肉炎の場合で2~3週間、軽い歯周病の場合でも2~3ヶ月歯磨きを励行すれば治りますが、これは歯石を取りのぞくことが前提となります。歯石は歯磨きでは取れないからです。

逆に、歯石を取ったからといって歯磨きを怠れば、その日からまた歯垢がつくられ始めて何にもなりません。かりに手術をしたとしても、手術後に歯を磨かなければ炎症は再発します。

まさに、歯周病の治療は、歯磨きに始まり、歯磨きで終わるといえるでしょう。毎日あるいは毎食後の歯磨きが、自分の口の中の治療になっているという自覚をもつことが大切です。

ゴールドマン博士の歯磨き治療

歯磨きが、いかに大切であるかの一例をあげましょう。

アメリカのボストン大学に、歯周病の治療では神様といわれているゴールドマン博士がいます。

歯周病患者に、まず歯を磨かせることを励行させた結果、大きな手術をしなければならなかった人が、ごく軽い手術で済み、ちょっとした手術をしなければいけないと考えていた人が、手術をしなくて済んだという結果が出たそうです。

たとえば、ポケットが6ミリあったとすると、歯磨きの励行で歯肉が3ミリ収縮してポケットが3ミリになれば、6ミリの治療をしなければならなかったものが、3ミリの治療で済むということなのです。

スケーリングとルートプレーニング

歯の面、すなわち肉眼で見える歯石とポケットの中の見えない歯石を取ることを「スケーリング」(歯石除去)といい、そして、歯石を取ったあとのざらざらした歯の面を平らにすることを「ルートプレーニング」(根面の滑沢化)といい、この2つが歯周病の基本治療として大切な処置になります。

スケーリングおよびルートプレーニングは、歯科の治療の中でも、難しい治療といえます。軽度の歯肉炎の場合、一回1時間として二回、重度の歯肉炎では四回ほどかかります。軽度の歯周病の場合は、約2ヶ月間、重度になると3ヶ月から6ヶ月を用います。

歯石を取ると、しみることがあります。また、歯石を取ったために、歯がグラグラと動きだす場合があります。これは、バイ菌で汚れていた服を脱いだために、少々寒くなったためだと思えばいいでしょう。歯が少し動き出しても、歯肉の炎症が改善されるにつれ、徐々にもどるので心配はいりません。

再評価

スケーリング、ルートプレーニング終了後、1ヶ月ぐらい様子をみて、歯肉の状態を再び診査します。これを「再評価」といいます。

再評価において歯科医は、歯のまわりの組織がどの程度改善されたか、歯磨きをどう正しくしているかを、あわせて評価します。ブラッシングがまだ十分でない場合には、再度ブラッシング指導をします。

この様な徹底したブラッシング指導は、以後の手術や最終補綴処置(冠をかぶせたり、入れ歯を作る処置のこと)の成功に導きます。また、治療終了後、患者自身が勝ちとった健康な口腔内を維持(メインテナンス)していくうえで、重要な役割を果たすこととなります。

以上のような基本治療と平行して、下記のような処置も行われます。

不良補綴物の除去

歯に対して金属冠が大きめにかぶせられているものは「バケツ冠」と呼ばれています。これは、歯と金属冠の間に、食物のかすがいつも入り込んだ状態になっています。また、バケツ冠や形態的に問題のある金属冠は、その部分の食物の流れを疎害し、食物をたまりやすくします。

このような不良補綴物の周囲は、歯ブラシによる清掃も困難であり、細菌にとっては格好の住み家となります。このため、この部分の歯肉はいつも赤く腫れた状態になり、ブラッシングをすると出血しています。

不良補綴物をはずして、口腔内の環境を整備することは、初期治療の処置としてたいへん重要なポイントとなります。

部分的橋正

歯が重なり合っていたり、傾いていたりすると、そこが吹だまりの様になって、歯垢や歯石がたまりやすくなります。つまり、細菌が繁殖しやすくなり、歯周病が悪化する原因となります。

また、歯周病によって、歯が本来あるべき位置を動いてしまっている場合もあります。この様な歯に対しては、部分的な橋正が行なわれることになります。口腔清掃を容易にするためです。

また、奥歯で、歯の根が2本、3本と複数になっている場合があります。そのため、歯の根の分岐部に細菌が入り、病巣を作ります。奥歯の分岐部に病巣がある場合、歯ブラシによる清掃が不可能であるために、新たな処置が必要となります。
下の奥歯の分岐部に病巣がある場合は、1本の歯を2本に分割する処置を行ないます。これにより、いままで、股であったところがなくなり、歯ブラシによる清掃は容易に可能となります。

同様に、歯の根が3本に分かれている上の奥歯の場合にも、根を1本、あるいは2本取り除く処置を行なって、清掃可能な状態にもっていきます。

奥歯に複数の根がある場合、それらの根は八の字に広がっている場合が多く、また、根と根の間隔も狭いために、このような根の分割、あるいは除去の処置が行なわれた場合には、橋正処置によって歯の根を移動させて、清掃しやすい状態にします。